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師範コラムvol.5 正しさと美しさ

 今春、我らが協会は二つの大きな挑戦を始めました。「丹足デモンストレーター」という資格認定の創設と、丹足ビデオの製作です。

 「丹足デモンストレーター」は文字通り丹足のデモンストレーションを対外的に行う認定資格者です。「丹足デモンストレーター」の認定条件は、段級試験で6級以上に合格し、その後デモンストレーター講習を受講することです。ちなみに6級というのは、丹足の基本型を一通り実演できる技術水準です。6級に合格するには、つまり丹足の基本型を実演するには、ハラと軸足を使うことが必要です。これが世間一般の人にはなかなかできないのです。

 以前とあるプロ野球投手が丹足稽古に参加したことがありますが、重心を低く保ってハラを使う丹足の動きができませんでした。投球の際には振りかぶって片足を前に大きく踏み出します。当然そうなると重心は下がりますが、その低い態勢で重心移動をしていくという丹足さながらの体の使い方が身についていなかったのです。プロ選手でさえそうですから、いわんや一般人をやです。

 しかし日々、千照館流の丹錬を行い、毎月稽古に励んでいれば、だんだんとハラの使い方が見えてくる。もちろん極めんとすれば先は果てしないですが、ハラの世界の入り口には立つことが出来る。そういう人たちが「丹足デモンストレーター」です。

 

 もうひとつ「丹足ビデオ」の製作に着手しました。去る3月29日に丹足施術風景の撮影をしました。あと1回どこかの寺社の庭園をお借りしての追加撮影を行い、編集をかけて一本の動画にする予定です。完成予定は5月20日。踏み手は井上紙鳶師範代です。

 この「丹足ビデオ」は、丹足を全く知らない人への広報用として、入門者の型確認用の教材として、また道場会員の丹足研究用として、様々な用途に使える物にしようと考えています。踏み手をわざわざ井上紙鳶師範代にしたのは、他流の熟練者が見ても丹足の真価を感じ取れるようにするためです。

 

 我々は社会に役立つ丹足の普及を目指す団体ですが、かといってただ多くの人に広まればいいとは考えていません。例え全世界で10億人の人が丹足に触れたとしても、それが本来の丹足からかけ離れた似非丹足であっては活動の意味はないと考えます。「丹足普及=正しい丹足普及」でなくてはならないのです。

 ところがこの「正しい」というものが案外と難しいものです。何を持って正しいとするのか。自分だけの正しさなら難しくはない。人によって違う「正しさ」を大勢の人が持ち寄った時、どうやって「共通の正しさ」を作っていけばいいのか。「正しい普及」を考える時、これは永遠のテーマとなることでしょう。私も随分悩みました。

 この「正しさ」の確保ということを考えている中で、思い浮かべたものがあります。それは富士山です。「富士は日本一の山~♪」と歌に歌われるように、多くの人に愛される富士山。この富士山がなぜこれほどまでに人の心を捉えるのか。愛されるのか。

 思うに富士山は他の山にはない二つのものが備わっているのです。それは「正しさ」と「美しさ」です。標高が日本で一番高いという「正しさ」、そしてあの山裾から山頂まで伸びる稜線の「美しさ」。このどちらが欠けても富士山は日本一ではなくなってしまう。富士山は最も正しく美しい山なのでしょう。だから人は富士山に目を奪われてしまう。富士は絶対の日本一の山なのです。

 もうお分かりですね。丹足の「正しさ」だけでは健全な普及は実現しないのです。「正しさ」と「美しさ」を共に兼ね備えていなくてはならないのです。さらに言えば、「正しさ」と「美しさ」は不可分の要素なのかもしれません。本当に美しいものは正しいし、本当に正しいものは美しいのです。丹足は「正しく美しく」あってこそ普及する意味が生まれてくる。この共通認識を我々は常にハラに据えて普及に勤しみたいのです。

 「丹足デモンストレーター」も「丹足ビデオ」も、「丹足の正しさと美しさ」という真価を視覚的に表現する大事な任務を担います。今後の活躍を心より願う次第です。

 

平成30年4月

千照館師範 三宅弘晃